私は2010年より医療・福祉の分野で作業療法Occupational therapyの仕事をしてきました。病気や死を迎える過程で苦しみ、もがく人が、内発的に湧いてくる「表現」を通して回復・受容を手助けする場面を多く見てきました。ここでいう表現というのはアートに限定されず、言葉や表情、仕草、あらゆる日常の作業。誰に指示されたわけではなく、内発的に現れてくる人々の表現を意味します。この仕事を通して得た経験は、私自身の心に大きく影響を与え、ある日を境に私は、内在している衝動を絵に表現するようになりました。それはまるで、自分を超えた大きな何かに動かされるように。その行為を通して流れ込むエネルギー、絵から発する波動は、自分自身や絵を見る人の癒しや変容のプロセスに繋がることを知り、描いています。
筆を持つとオートマティックに動く手に心を重ね、形になる過程に時を合わせます。それは空間・身体・精神に流れ込む生命の躍動と、魂とを重ねているようにも感じます。
コロナウィルスが世界を巻き込み、既存社会が限界を迎えている今、我々、ひとり一人の意識の在り方が問われています。本質的に人類が望んでいる世界とは?私たちはどう生きるべきか?地球の音、自然の声、生命の波動、それらの媒体となる肉体・精神を通しての表現。人種や国境・宗教・性別を超えて共通する普遍的な問いを絵を介して追求しています。
2021年3月吉日 宮良志穂